対馬市、木質資源を使った熱供給事業で年間2000万円の経済効果

2024.05.15 Update

対馬市、木質資源を使った熱供給事業で年間2000万円の経済効果

面積の約9割が森林の長崎県対馬市。市と事業者がタッグを組んで、島内の木質バイオマス資源を活用したエネルギー循環に取り組んでいます。この取り組みによって、毎年2000万円を超える経済循環効果が生まれているとのこと。いったいどのような取り組みなのか、現地で取材しました。

 

ESCOによる木質バイオマス熱供給事業

 

 

(対馬市の上島と下島を結ぶ万関橋近くからの様子。筆者撮影)

 

福岡空港から飛行機で約30分、国境の離島である対馬市の対馬やまねこ空港に降り立つと、見渡す限り木々が広がっています。対馬市の森林面積は6万3000ヘクタール。市の総面積の約9割を森林が占めています。起伏が多く、平地が少ないのが特徴です。

市では2022年から、島内の木質バイオマス資源を燃料とするボイラでお湯をつくり、市の温浴施設やプールに供給するESCO事業に取り組んでいます。

ESCOとは、“Energy Service Company”の略。わかりやすくいうと、エネルギー設備を購入するのではなく、使用量に応じたサービス料金を支払って、長期にわたって設備を利用する仕組みです。利用者はまとまった初期投資を準備する必要がないため、新しい設備を導入しやすくなるメリットがあります。

また、契約によっては、設備のメンテナンス費用などもサービス料金に含まれるため、利用者の負担を軽減することもできます。

 

地域主導型で島外の専門家とも協力

 

(湯多里ランドつしまにおける木質バイオマス熱供給事業の取り組み。筆者撮影)

 

対馬市におけるESCO型の熱供給事業の概要は次の通り。島内の林業で発生した製材の端材や、建築用には使用できない部分をチップ化し、バイオマスボイラの燃料にします。ボイラでチップを燃やして発生した熱は、市の温泉・スイミング施設「湯多里ランドつしま」に供給しています。

 

 

(湯多里ランドつしまに併設されたバイオマスボイラ。筆者撮影)

 

特筆すべき点は、これらの取り組みをすべて島内で完結していることです。ボイラの導入や運転管理、燃料の調達を担うのは、対馬市にある地域エネルギー会社の「株式会社エネルギーエージェンシーつしま」です。

 

(ボイラの熱を運ぶための配管。筆者撮影)

 

代表取締役の久木裕さんは、同社の運営体制について「地元企業と、バイオマスの専門知識をもつ島外の専門企業が共同出資して設立しました。ESCO事業者として島内の企業が地域主導型で対応し、必要に応じて島外の専門人材がサポートする体制を構築しています」と話します。

 

燃料は対馬産の木質チップ100

 

(チップを切削するための機械。筆者撮影)

 

端材などの原材料の調達・チップ生産は、対馬資源開発協業体が担います。対馬資源開発協業体の母体は社会福祉法人米寿会であり、チップ化の作業には、障がいをもつ方々がそれぞれの能力を活かしながら携わっています。

 

 

(切削されたばかりのチップはしっとりとしている。筆者撮影)

 

チップには対馬に多いヒノキを100%使用しているとのことで、チップ工場を訪れると、ヒノキの良い香りがします。切削されたチップは、燃料にするのに最適な水分量になるように自然乾燥されます。木の皮も含んでいるため、チップ全体の色が茶色っぽいのが印象的でした。

 

雇用や収入機会の増加につながる

 

湯多里ランドつしまでは、木質バイオマス熱供給事業の取り組みによってさまざまな効果が生まれています。「もし灯油ボイラーでお湯を作っていたとしたら、燃料代などとして年間2,000万円以上が島外に流出していたでしょう。これを木質チップボイラに変えたことで、島外に資金が流出するのを防ぐとともに、地域に新しいお金の流れが生まれました」。

「従来、ボイラのメンテナンスなどの作業は、島外の事業者に任せていましたが、今は基本的な作業は島内で対応できるようになり、新たな仕事の創出につながっています。また、災害などの非常時にもお湯を供給できる仕組みが整っています」と久木さんは説明します。

今後について、「燃料である木質チップの供給、加工、輸送をすべて島内で完結するには、平らで広い土地が必要ですが、起伏の多い対馬では土地の選定がハードルだと考えています。需要と供給のバランス、事業性を考慮しながら、熱需要のある施設に向けて、これからも木質バイオマスボイラのESCO事業を展開していきたいと考えています」と久木さんは力強く展望を語りました。

制作:office SOTO 山下幸恵 Facebook