東大発、宅内IoTをつなげるプラットフォームのサービス

2019.06.05 Update

スマートホーム

東大発、宅内IoTをつなげるプラットフォームのサービス

HEMSやスマート家電、環境センサー、赤外線リモコンなど、宅内IoTはさまざまなものが開発され、商品化されています。また、ECHONET Liteというプロトコルもあり、一部の家電に導入されています。しかし、現実にはなかなか普及していません。その理由の一つが、機器ごとに異なるプロトコルで動いているため、さまざまなIoT機器を一体のものとして使うことが難しいからです。

これに対し、東京大学生産技術研究所では、“IoT-HUB”を構築し、プロトコルの異なる機器を接続する実証を、パートナー企業とともに行ってきました。その成果が、新会社であるIoT-EX株式会社によって、社会実装されるということです。東京大学生産技術研究所では、この事業を通じて、IoTのサービスの開発が進むことを期待しているということです。

宅内IoTの課題

宅内IoTとひとくちに言っても、実はさまざまなものが開発され、商用化されています。

実際に、Google HomeやAmazon Echoのような音声デバイス、HEMS、電気のON/OFFを遠隔で操作できるスマートコンセント、多様な家電に対応した赤外線リモコン、スマートロックやスマートドアホン、ECHONET Liteに対応した家電、温度や湿度などの環境センサー、ネットワークカメラなど、さまざまなものがあります。

確かに、声で操作することや、外出先からの操作、災害時の自動的な対応など、便利な機能がたくさんあります。しかし、実際には、普及しているとはいいがたいのではないでしょうか。

課題はいろいろありますが、そのひとつが、機器ごとのプロトコルが異なるということです。例えば、ECHONET Liteというプロトコルがあり、日本ではスマート家電の標準的なプロトコルとされていますが、実装されている機器は比較的高価で、エアコンやエコキュートなどが中心ではないでしょうか。これに対し、テレビや照明、標準的なエアコンには、赤外線リモコンがついていますが、これに対応したIoTの赤外線リモコンが商品化されています。また、この他のIoT機器も、プロトコルが異なり、メーカーごとのプライベートクラウドで動いています。

これでは、ユーザーにとって、利便性が低いものとなってしまいます。

社会実装するIoT-HUBとは

東京大学生産技術研究所で、産学連携のパートナー企業と進めてきた実証実験のポイントは、次の2点です。

1つは、各メーカーのプライベートクラウドを相互接続するということです。例えば、ガスコンロと玄関のスマートキーの連係を考えます。ガスコンロは実際に揺れると消火するものがありますが、緊急地震速報で消火できればさらに安全性が増します。一方、地震のときに、在宅であれば自動で玄関の鍵が開くと逃げやすいですが、不在ではかえって泥棒が入りやすくなります。そこで、ガスコンロの消火に対応して玄関の鍵が開くようにすれば、不在のときに開くことはなくなります(図1、出典「東京大学生産技術研究所・IoT-EX、プレゼンテーション資料」)。

図1

とはいえ、ガスコンロと玄関のスマートキーはそれぞれメーカーもプロトコルも異なります。それぞれのメーカーのプライベートクラウドを接続することで、連係可能にしよう、というのが、1つめの課題です。

2つめは、標準化を前提としない接続です。照明や扇風機のように低価格の機器と、エアコンやエコキュートのような高価格の機器では、同じプロトコルにするということに無理があります。また、同じ家電であっても機能が違えば、操作が異なります。そこで、それぞれの機器のドライバを同じAPIに落とし込むことで、連係したアプリケーションの開発を可能にしました(図2、出典「東京大学生産技術研究所・IoT-EX、プレゼンテーション資料」)。これは、パソコンにさまざまなプリンターが異なるドライバでつながっていても、同じ「印刷」のコマンドで利用できることに似ています。

図2

他にも、機器の開発の前にインターフェイス条件だけでサービス開発を進めることができる仮想デバイスやブロックチェーンなど他のエンジンとの接続性などを含めたプラットフォームが、今回実装されるIoT-HUBということです(表紙、出典「東京大学生産技術研究所・IoT-EX、プレゼンテーション資料」)。

IoT-EXのこれから

IoT-EXは、実証研究に参加した企業の1つである、BizMobile株式会社によって設立された、電気通信事業者です。そして、提供するサービスの1つは、IoT機器のプライベートクラウドどうしやアプリケーションなどを相互接続するサービスです。

もう1つの事業は、IoTサービスを創造するためのコンサルティング業務ということです。ビジネスマッチングをはじめ、アプリケーションやドライバなどの開発などを行っていくということです。

IoT、とりわけスマート家電が普及しない理由の1つは、メーカーがユーザーを囲い込もうとしてきたことです。そのため、IoT-HUBは共有材として運用し、そのためにIoT-EXへの他企業の参加もよびかけていくということです。

5月29日には、都内で記者発表が行われました(写真1)。そこで東京大学の野城智也教授は、「技術を公知のものとし、仲間を増やしたい」と話しています。

写真1

また、IoT-EXの小畑至弘社長は、これまでのIoTはDIY型が伸びているが、今後は放送事業のようなサービス提供型に移っていき、「世界に攻めていきたい」としています。

5月31日~6月2日には、東京大学のオープンキャンパスで、IoT-HUBの実証サイトとなった実験住宅「COMMAハウス」が公開されました(写真2)。ここでは、Amazon EchoとGoogle Homeが協調して、介護ベッドを安全に作動させるといったデモンストレーションなど行われました。

写真2

宅内IoTサービスを開発する環境が整ったので、今後は魅力的なサービスが登場することが期待されます。

 

Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)