COP24でパリ協定の実施指針決定。本格的な運用がスタート

2019.02.08 Update

パリ協定

COP24でパリ協定の実施指針決定。本格的な運用がスタート

昨年12月2日から15日にかけて、ポーランドのカトヴィツェでCOP24(気候変動枠組み条約第24回締約国会議)が開催されました。

今回の会議の焦点の一つは、パリ協定のルールブック(実施指針)を決めることでした。そして、いくつかの課題はのこしたものの、ルールブックで合意し、パリ協定の本格的な運用がスタートしたことになります。

一方、会議に向けてIPCCが公表した、平均気温1.5℃上昇についての特別報告書や、タラノア対話(促進的対話)の結果については、十分に反映されたとはいえませんでした。しかし、これらは、平均気温の上昇を、2℃未満ではなく1.5℃未満にすることを暗に求めています。今後、各国の温室効果ガスの削減目標をより野心的なものにしていくにあたって、影響を与えていくものになると思われます。

パリ協定のルールブック

パリ協定とは、2015年にフランスのパリで開催された、2020年以降の気候変動対策の国際的な枠組みです。京都議定書と異なり、先進国も途上国も温室効果ガスの排出削減の目標を持つことと、将来の平均気温上昇を2℃未満に抑制することとなっています。また、目標達成に拘束力を持たせないかわりに、国どうしでレビューをするというしくみを取り入れています。さらに、先進国には資金の拠出や技術移転も義務としています。

とはいえ、パリ協定を運用するための実施指針は先送りされていました。それが、COP24で合意されたということです。

では、今回合意されたパリ協定のルールブックとは、どのような内容なのでしょうか。

表1は、今回合意された主な内容をまとめたものです。

(表1)

以下、これについて解説していきます。削減目標については。すでに各国は、2025年まで、ないしは2030年までの温室効果ガスの削減目標を提出しています。日本は、2030年までに2013年度比26%削減となっています。

しかし、途上国は目標として、先進国に対し、資金の拠出や技術移転も含めるように求めてきました。これは先進国に押し切られた形になります。

とはいえ、単純に26%削減します、ということだけではだめです。どうやって削減するのか、検証はどうするのか、公平性があるのか、といったことも、提出文書で正確に示さなくてはなりません。

透明性報告書というのは、確実に削減しているということを示すものですが、温室効果ガスの排出量などを算定するインフラが整っていない途上国には猶予(柔軟性)を与えます、ということです。日本のような先進国は、言うまでもなく、明確に算定しなくてはなりません。

グローバル・ストックテイクというのは、5年ごとにパリ協定の進捗状況をざっくばらんに話し合おう、というものです。次の目標設定は2025年からなので、それに先立つ2023年に行うということです。最後は、閣僚級会合を通じて、政治的メッセージとして発せられるものになるということです。

やり方としては、後述するタラノア対話のような形式になりそうです。

市場メカニズムについては、今回は見送られた形です。日本が主張する二国間クレジットの取り扱いも、当然先送りです。今年チリで開催されるCOP25のテーマということになります。

資金ですが、パリ協定のルールブックでは、報告、および市場メカニズムを通じて得られる資金、将来の新たな資金の目標設定の議論開始、といったことにとどまります。パリ協定とは別に、2025年までに1000億ドルを下限とする新たな資金目標について、2020年から議論を開始することになりました。

日本はどのくらい拠出するのか、というのはこれからです。とはいえ、2020年までに100億ドルとされている緑の気候は先進国で割り当て済みで、日本は15億ドル(先進国トップ)を拠出することになっています。ただ、追加資金については、ドイツは17億ドルを表明していますが、日本は様子見といったところです。

日本にとって重要なのはこれから

ルールブックができたことで、パリ協定の本格的な運用がスタートします。とはいえ、これが日本にどんな影響があるのか、ちょっとわかりにくいかもしれません。

結論を言うと、パリ協定が始まることそのものが重要だということです。

まず、削減目標ですが、日本を含む各国には、より野心的目標に引き上げることが期待されています。

図1は、IPCC第5次評価報告書が示した、21世紀末の地球の平均気温の上昇です。このままでは、4℃上昇しますが、2℃未満に抑制する可能性も残っていうことを示しています。しかし、そのためには、現在のパリ協定における削減目標では足りないということです。

(図1)

 日本は2030年までの目標を提出していますが、2025年にこの目標を再提出するのではなく、より野心的な目標が求められると考えていいでしょう。

もうひとつは、市場メカニズムです。京都議定書ではクリーン開発メカニズムなどのしくみが導入されました。パリ協定ではどうなるのか。二国間クレジットが認められるのか、またそのためにはどのような要件が必要なのか。その交渉もこれからです。

タラノア対話・IPCC特別報告書・非国家アクター

COP24で注目されていたことのひとつは、タラノア対話(促進的対話)とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書の取り扱いでした。

タラノア対話は、議論ではなく考え方を出しあうという方法で、対話を進めるということで、6月の補助機関会合でスタートし、各国でも同様の取組みが行われたあと、COP24で報告されるというものでした。日本国内でも何回か行われています。

タラノア対話を通じて、民間企業や自治体もさまざまな意見やアイデアを出しました。全般的に、気温上昇を1.5℃未満に抑制していくという考え方が強かったようです。

同様に、IPCCの特別報告書もこれを支持するものでした。

しかし、どちらもCOP24の報告書に大きく取り上げられることはありませんでした。米国や中国、産油国の反対があったため、今回のCOPで削減目標の引き上げにつながる議論とはならなかったからです。

とはいえ、今後の削減目標の議論にあたっては、これらを踏まえるという合意はなされています。

もうひとつ、注目されたのは、民間企業や自治体などの、非国家アクターの存在でした。

COP24の会場近くで、さまざまなサイドイベントが開催されました。こうしたサイドイベントで、民間や自治体の方々の情報交換が積極的に行われていたということです。

大きな流れとして、「政府の決定を待っていては自分たちの行動が遅れてしまう」ということがあります。

代表的なものが、米国のWe are still in(WASI)です。トランプ大統領がパリ協定から離脱しても、自治体や企業はパリ協定に残る、ということです。

民間企業にしてみれば、消極的な政府につきあっていては、持続可能なグローバルビジネスはできないということでしょうし、自治体にしてみれば、気候変動の影響を少しでも食い止めなければいけないということになります。

とりわけ金融機関においては、持続可能ではない企業には投資できないということになります。そこで、RE100(再エネ100%)への傘下やSBT(科学的根拠を持った目標設定の認証)の取得などが積極的に行われています。

同時に、国際環境団体もこれを支持しているという構図です。

次回のCOP25は、今年末、チリで開催されます。また、その前にも6月の補助機関会合が開催されますし、6月のG20サミット、8月のG7サミットでも気候変動がテーマとして取り上げられる予定です。9月の国連気候サミットも開催されます。

同時に、気候変動の国際交渉は政府だけのものではなくなってきたともいえるでしょう。今後、非国家アクターの存在はより大きなものとなるでしょう。

 

エネルギービジネスデザイン事務所 本橋恵一

(出典)

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