小水力発電と地域振興の取組み

2018.12.13 Update

再エネ 水力

小水力発電と地域振興の取組み

11月30日、三菱総合研究所において、第6回小水力発電勉強会が開催されました。このときの講演から、島根県および飛島建設の取組みを紹介します。いずれも、地域と自治体、そして技術を持つ民間事業者の一体的な協力が欠かせないということですが、とりわけ地域にはそれぞれさまざまな事情があり、相互理解は極めて重要です。 

スマートシティ開発においても、小水力発電は重要なピースとなりうるものです。 

島根県・地域の老朽化小水力をFIT施設にリプレイス

島根県企業局施設課 佐藤信明氏 

島根県の取組みを紹介したのは、企業局施設課の佐藤信明氏です。 

島根県企業局では、電気事業や水道事業、宅地造成事業などを行っています。電気事業では、13の水力発電所、4つの太陽光発電所、2つの風力発電所を運営しており、いずれも中国電力に売電しています。 

島根県の水力発電所への取組みは、1951年に砂防電気課で三成ダムと三成発電所の建設に着手したことがはじまりです。この三成発電所は、現在、リニューアル工事を行っており、完成すれば出力は2830kWから3150kWになります(下写真:島根県企業局提供)。 

島根県企業局では現在、自然エネルギーは地域の財産であり、上手に利用してFITなどを通じて地域を活性化させるといったことをキーワードに、県内の小水力発電開発技術支援を行っています。何といっても、開発から運営まで一貫した事業を行っていることが、企業局の強みだということです。 

支援した代表的なケースが、安来市の老朽化した水力発電所のリプレイスでした。 

安来市は老朽化した水力発電所を抱えており、これを県で引き取ってもらいたいと考えていました。これに対し、県企業局は、FITを活用し、市で利益を出せるしくみを逆提案しました。 

県企業局が行っている技術支援は、「導入ポテンシャル」「経済性評価」「関係法令申請手続き」「建設工事発注作業」「維持管理に係る技術」などをはじめさまざまな情報提供など多岐にわたっています。こうして支援が行われた水力発電所の一覧が、下の表です。 

こうした中、吉賀町では、発電で得た利益を子育て支援に活用しているということです。というのも、少子化対策として、子どもを育てやすい環境にしていくということが求められているからです。

具体的な対策は次の通りです。

・子ども医療費全額助成

⇒高校卒業までの医療費が全額無料ということです。

・保育料完全無料(一時保育も含む)

⇒ 一時保育は一カ月に12日まで可能ということです。

・放課後児童クラブ利用も完全無料

⇒利用料だけではなく、おやつ代まで無料です。

・給食費完全無料

・UIターンした子育て世帯に合計30万円の補助金交付

⇒これは中学生以下の子どもがいる世帯が対象になります。子どもを育てるなら吉賀町がいい、ということで、若い家族が引っ越してくると、町は活気が出てくるでしょう。

こうした吉賀町の取組みについても。県企業局の支援が実務的なだけではなく、支援を通じて当事者(吉賀町や住民)の意識を変えていった結果だということがあります。というのも、少子高齢化社会では、どうしても当事者の直接の利益にならない少子化対策は後回しになりやすいからです。その点、税金ではなく事業収益を使うというのは、高齢化した住民にも受け入れやすいのかもしれません。

また、技術的支援だけではなく、「源流地域保全支援事業」も2003年から行っています。水源涵養燐を保全し、水の大切さを県民に対して啓発していくというもので、NPO団体に委託して行っています。地域住民や小中学生と連携した、森づくり事業ということです。

県企業局では、今後も技術支援を継続する一方で、新規開発の調査・検討も行っています。また、土地改良区からの相談も増えているということです。

中国地方はなだらかな山が多く、小水力発電の適地は必ずしも多くはありません。そこで、これまでに取り組んでいないFIT電源の可能性の調査も行っています。

地域一体となった小水力発電建設

飛鳥建設 田村琢之氏 

飛島建設の田村琢之氏からは、岐阜県中津川市の落合平石小水力発電所の建設事業が紹介されました。 

中津川市は起伏が多い中山間地域です。その候補地になったのが、平石地区の農業用水路である平石用水でした。途中に大きな未利用落差がありました。 

一方、平石用水そのものは老朽化しており、十分な補修ができない状態にありました。 

そこで、飛島建設では、平石用水の一部を導水路として共用する一方、水路の回収を行うことを水路管理者に提案し、基本的な合意を得て、事業を推進したということです。 

地元との協議は20回に及んだということです。 

地元にとってのメリットは、農業用水路の補修に加えて、水路利用料の収入、水路の維持管理費の委託料収入がありました。地元はこれ以上の要求はなかったということです。ただし、地元が何を要求するのか、ということはケースバイケースだといえます。 

落合平石小水力発電所は、2012年の調査開始からはじまって、2016年4月に運転を開始しました。発電機の出力は126kW,電気は全量が中部電力に売電されています。 

お披露目会も地元主体で開催されました。 

下の写真が、完成した発電所です(飛島建設提供)。 

設備配置を示したものが、次の図(飛島建設提供)です。 取水口から最初はゆるやかな勾配を伝って水が流れてきますが、最後に灌漑用水としてつながっていく部分の落差が、発電に利用されています。 

小水力発電の適地は、急峻な山が多い日本、とりわけ北陸地方や東北地方にはまだまだあります。ただし、開発のリードタイムは長いことなど、課題も少なくありません。それでも、地元と技術を持つ行政や民間が協力して開発を進めることができれば、その資源は地元に還元され、活性化にもつながると思います。 

今後も、勉強会は続けていくということです。 

 

※トップ画像:島根県企業局提供

 

Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)