パリ協定目標達成を目指す非政府団体のネットワーク「気候変動イニシアティブ」設立

2018.08.07 Update

再生可能エネルギー パリ協定

パリ協定目標達成を目指す非政府団体のネットワーク「気候変動イニシアティブ」設立

気候変動対策の国際的な枠組みである「パリ協定」の目標達成を目指す、企業やNPO、自治体など中央政府以外の団体のゆるやかなネットワークである「気候変動イニシアティブ」が、7月6日に設立されました。

「パリ協定」では、地球の平均気温の上昇を2℃未満、可能であれば1.5℃未満に抑制することを目標として、参加する全ての国がCO2など温室効果ガスの排出を削減していくことになっています。日本もこの協定に批准していますが、その姿勢には消極的なものも見られます。こうした状況に対し、非国家アクターとして、気候変動問題に取り組み、国際社会にもメッセージを発信していくということです。

左から山岸尚之氏(WWFジャパン)、末吉竹二郎氏(UNEP)、加藤茂夫氏(リコー執行役員)、鈴木悌介氏(鈴廣社長)、岡田憲和氏(京都市副市長)、二村睦子氏(日本生協連組織推進本部長)、大野輝之氏(自然エネルギー財団常務理事)、森澤充世氏(CDPジャパンディレクター)

日本版”We Are Still In”

「気候変動イニシアティブ」には、モデルがあります。それは、米国で1年前に設立されたネットワーク組織「We Are Still In」です。

米国ではトランプ政権がパリ協定を離脱する方針を示しました(協定の規約上、離脱は4年後になります)。これに対して、多くの企業、自治体、NPOなど、中央政府以外の、いわゆる非国家アクターがパリ協定に留まるべきだという意見を公表しました。そして、考えを同じくする非国家アクターが、パリ協定の目標達成を目指すネットワーク組織として「We Are Still In(私たちはまだパリ協定に留まっている)」を設立したということです。

こうした米国の動きを受けて、他国でも同様の組織をつくる動きが始まっているようですが、そのひとつとして日本では「気候変動イニシアティブ」が設立されたということです。

「We Are Still In」にはおよそ3000の団体が参加しているということです。そこには、パリ協定に留まらなければ、国際市場で活躍できないという危機感もあるということです。

低調な国内の気候変動防止を活性化

設立にあわせて行われた記者会見で、代表呼びかけ人でUNEP金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎氏は、設立にあたって3つの背景があるとしました。

 

UNEP金融イニシアティブ特別顧問 末吉竹二郎氏

第一に、日本が世界のトレンドに乗り遅れてはならないということです。パリ協定が採択された2015年のCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)では、世界各国のビジネスセクターが政府の背中を押しました。

第二に、日本の非政府アクターの活動が正当に評価されていないこと、そしてその理由として国内外に発信する場がないことです。そのため、情報発信のプラットフォームという役割が必要です。

第三に、日本国内での気候変動問題に対する議論が低調に思えることです。これを活性化させ、ライフスタイルや社会のあり方を変えていくということです。そこには、気候変動をめぐり、世界は新しい競争の時代に入っており、日本はこの競争に負けるわけにはいかない、という危機感があります。

グローバル経済へのキャッチアップと、地域経済の振興

一方、企業からの参加者を代表して、日本気候リーダーズ・パートナーシップ共同代表でリコーの執行役員でもある加藤茂夫氏と、エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議代表理事で鈴廣かまぼこ代表取締役社長の鈴木悌介氏からも発言がありました。

加藤氏は、グローバルな脱炭素がすごいスピードで進んでおり、日本が周回遅れであることを強く感じていると述べました。そしてグローバル経済からはじき出されないために、国全体の社会システムの脱炭素化、世界への発信、政府と産業界全体への影響という点に期待するということです。

また、鈴木氏は、企業全体のうち97%が中小企業であるとして、中小企業の省エネと地域の再エネによるエネルギーの地産地消で地域でまわるお金を増やすという考えを示しました。これにより、持続可能な地域経済をつくっていくということです。

設立記者会見には、来賓として、外務省から鈴木秀生氏(地球規模課題審議官)、環境省から森下哲氏(地球環境局長)が参加しました。鈴木氏からは、来年のG20で気候変動が大きなテーマとなること、脱炭素を通じて豊かで平和な世界にしていくということが述べられました。また森下氏からはパリ協定に基づく長期戦略を策定していくこと、企業が経営の中にSDGsを織り込んでいくことをサポートしていくことなどが述べられました。

設立時の参加は105団体、経団連会長企業も

設立にあたって、最初に参加したのは105団体でした。企業は75社、自治体は15団体、その他に社団法人やNPO法人が含まれます。また、事務局となるのは、CDP-Worldwide-Japan、自然エネルギー財団、世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の3団体です。

参加企業には、よく知られた大企業から地方の中小企業まで、業種も食品、流通、通信、金融、建設、電機など。日本経済団体連合会の会長会社である日立製作所も参加しています。そこには、グローバルな視点でSDGsに取り組もうとしている企業としての姿勢が見られるということです。また、日立製作所も含め、それぞれの会社には、気候変動問題に対するソリューションを国際社会に提供していくという戦略もあることでしょう。

ところで、今後の展開ですが、4つの活動方針が示されています。それは、

1.脱炭素社会実現に向け、日本全体を動かすムーブメントの創出

2.参加メンバーの活動サポート/実践の支援

3.日本の気候変動対策の強化に向けた政府との対話の展開

4.日本の非政府アクターの取組みの世界への発信と国際連携

ということです。特に、政府との対話では、2050年を念頭に政府で検討が始まる「長期低排出発展戦略」について各省庁と対話していくということです。

もっとも、現段階ではこれ以上は決まったことはなく、まずは自発的積極的な取組みをそれぞれが進めていくということです。その経験が共有され、発信されていくことから始まるのでしょう。同時に、新たな参加団体も広く求めていくということです。

周回遅れからトップランナーへ

筆者から見ると、日本は本当に気候変動問題について周回遅れだと感じています。その象徴的なことが、石炭火力をベースロードに位置付けている新しいエネルギー基本計画です。また、今回の気候変動イニシアティブに、大手エネルギー会社は参加していません。これも問題だと思います。その点、We Are Still InにはExxon Mobileが参加していることが、対照的です。

もっとも、こうした状況にある日本だからこそ、非国家アクターを世界のリーダーにしていこうという取組みは、大きな意味があると思います。

かつて、日本政府や産業界は京都議定書について、「米国も中国も参加していない条約では意味がない」としてきました。しかし気付いてみると、現在の米国政府こそ離脱の方針であるものの、米国企業や自治体と中国はパリ協定をリードする立場になっています。日本はすでに、気候変動問題に取り組まない言い訳はできなくなっていると思います。

今回は小さな動きかもしれませんが、これが拡大していくことを期待したいと思います。

 

Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)