日本初のマイクログリッドを有するまちづくり:積水ハウスが「東松島市スマート防災エコタウン」を実現するカギとなったのは?

2017.07.07 Update

インタビュー 再エネ スマートシティ

日本初のマイクログリッドを有するまちづくり:積水ハウスが「東松島市スマート防災エコタウン」を実現するカギとなったのは?

積水ハウスといえば、日本のみならず世界でも有数のトップハウスメーカー。しかも、業界全体をリードする新しい取組にチャレンジし続けています。

積水ハウスの最近の取組の中に「東松島市スマート防災エコタウン」があります。これは、東松島市と協働して取り組んだ、日本初のマイクログリッドによるまちづくりです。今回は、このプロジェクトについて積水ハウス株式会社常務執行役員である石田建一(いしだ けんいち)氏にお話をお聞きしました。

常務執行役員 石田建一氏
常務執行役員 石田建一氏

環境配慮型住宅の開発、COP21への調印、そして住宅防災の強化

―まず、このプロジェクトに至るまで積水ハウスはどのような取組をしてきたのでしょうか?

石田氏 積水ハウスは住まいは社会問題の中心であり「住まいから社会をよくする」という企業理念を持っています。このため地球温暖化問題に対しては、環境に配慮した住宅を開発し、普及させることで温暖化防止に貢献してきました。

2008年の洞爺湖サミットで主要8カ国首脳は、2050年までに世界全体の温室効果ガスを半減する長期目標に合意しました。それを達成するために積水ハウスは2009年から「グリーンファーストモデル」の販売を開始しました。これは断熱性・エネルギー効率を改良し、さらに太陽光発電システムや家庭用燃料電池(エネファーム)の創エネ機器を搭載し、快適に暮らしなが居住時のCO2排出を50%以上削減することができる住宅です。

2011年3月11日の東日本大震災で長期間の停電が発生したことを受け、2011年8月には被災時にも自立生活が維持できる3電池(太陽電池・燃料電池・蓄電池)を搭載した住宅「グリーンファーストハイブリッド」を発売しました。この住宅では、停電が起こってもほぼ普通の生活を維持することができます。

さらに日本政府の2020年にはネット・ゼロエネルギーハウス(ZEH)を標準的な新築住宅にする目標を受けて、2013年にはZEHである「グリーンファースト ゼロ」の販売を開始しています。

さらに、2015年12月の「パリ協定」を受け、2030年までに既存住宅も含め住まいからの温室効果ガスの排出量を約40%削減するという「パリ協定遵守」の宣言を行いました。また、COP21では、積水ハウスは「GLOBAL ALLIANCE BUILDINGS AND CONSTRUCTION AT COP21(建物および建設部門における 共同宣言)」に国内民間企業としては唯一の賛同・署名しました。これは世界で70機関が参加し、日本では東京都と積水ハウスだけが参加しています。

これらの環境・防災への取組を次に生かす場所として、積水ハウスが着目したのが「まち」だったのです。

住宅から「まち」への挑戦 ~東松島市スマート防災エコタウン~

―東松島市スマート防災エコタウンの特徴はどのようなものでしょうか?

石田氏 主な特徴は3点あります。

まず1点目が、日本初のマイクログリッドを利用し、地産地消に貢献していること。太陽光発電の発電電力を固定価格買い取り制度(FIT)で売らず、自営線により災害公営住宅85戸と周辺の4つの病院や公共施設にCEMS(Community Energy Management System)で最適制御しながら供給する地産地消のシステムを採用しています。

2点目は非常時の防災力が高いこと。系統電力が遮断した場合にも、スマートタウン内の発電機・蓄電池を組み合わせ、最低3日間は通常の電力供給ができます。災害時は、地方ほど停電が長引く傾向があり、地方ほどエネルギー自立が必要です。実際に東松島市でも最大で1か月電気が来なかった地域があるそうです。また、自営線マイクログリッドの送電網を生かし、停電が長期間続く場合にも病院や集会所などへ最低限の電力供給を継続することができます。

3点目は、地域経済の活性化に貢献していることです。このスマートタウンの自営線マイクログリッドを運営する地域新電力事業者は、地元でもともと復興推進の活動をしていた東松島みらいとし機構(HOPE)です。この新電力事業により地域に新しい雇用が生まれました。またこの事業で得た利益は地域活性化のために利用される予定です。

実験止まりではなく、実現できる収益モデルを構築した

―このプロジェクトを実現するうえでこだわったポイントはありますか?

石田氏 「事業を継続できるモデルである」ということを目標にしました。どういうことかというと、この事例のように先進技術を初めて実施する場合、技術の実証実験が終わると、やめてしまうことが多いようです。したがって、事業を継続するモデルとしては、収益性が極めて重要となります。もちろん初期投資に補助金は必要ですが、日常の運営は補助金が無くとも回せるモデルでなければいけません。今回の事例で言えば、収益源は太陽光発電システムです。初期費用を除けば太陽光発電の発電電力は無料で、これを売電により利益を生み出します。大規模開発では、大雨の時に洪水を防ぐため調整池を作る事が義務づけられており、ここに太陽光発電を設置し、周囲の災害公営住宅に電力を供給することを考えました。しかし、一般の配電網を使うと託送料がかかります。託送料は近くだから安くして欲しいと言っても駄目で、自営線にして託送料を安くしました。これにより、利益の出る仕組みを構築する事が出来ました。また、自営線にしたことで、停電時に街全体を系統から切り離して、独自に電力供給が出来れば停電しない街にする事ができるようになりました。

まだ、住宅は日中に電力をあまり使わないため、電力が余ってしまう問題がありました。これでは地産地消になりません。周囲には病院が多く、東日本大震災で電気が無くなり、大変ご苦労されたので、停電しない街に賛同して頂き、病院などに参加して頂くことで電力の発電と電力消費のバランスが取れるようになりました。

他にも、CEMSのシステムを作る際にもなるべく運用コストがかからないよう、あえて精密に予測しすぎないシステムを採用し、スマートタウンが事業として存続するためになるべく無駄なコストがかからないように工夫しています。

関係者全員が同じビジョンを共有していたことで壁を乗り越えることができた

―進める中で困難なことはありましたか?

石田氏 このプロジェクト成功までには障壁も多く、例えば住宅の敷地を超えて、病院などの施設を含めて自営線ネットワークをつなげる取組は、前例も無くハードルの高い問題でした。しかし、「良い街」を作りたいというビジョンを、市長も担当者も含めた関係者全員で共有し、同じゴールに向かっていたことで快く協力を得ることができ、乗り越えることができました。

―展開についてはどうお考えですか?

石田氏 マイクログリッドタウンはもっと普及すべきだと思います。特に地方では、エネルギー自立の観点からニーズがあると思います。ただ、他に事例がないので、地域の住民の方々や自治体の協力を得なければまだまだ難しい側面があります。今回は、震災の復興を市として推進していて、地域住民の方々や病院などの施設の方々の協力も得られたことで成し遂げることができました。


過疎化が進む地方では、エネルギーコストを下げ、エネルギー自立するためにこの仕組みは有効です。特に防災の観点からも、非常時に停電を遅らせることができるこれらの仕組みは必ずニーズがあるはずです。積水ハウスのように世の中をよくしようと高レベルの技術や経営ノウハウを提供したい企業もまた多いでしょう。ただ、マイクログリッドタウンはまだまだハードルの高い事業です。そこで、展開に向けひとつの大きなカギとなってくるのは、民間企業が壁にぶつかったとき行政が同じ「地域を良くしたい」という志を持ち、官民が連携して実現に向けて動くことではないでしょうか。

また、取材をしていて「世の中のためになる」というキーワードがたくさん出てきたことも印象的でした。石田氏が言うには、「機能を追い求めるのではなく、快適な家を作るのがポイント。売れる家を作り、市場を作らなければ、いくら世の中のためになる取組でも普及しない」「競合他社に対して勝ち負けという考え方ではなく、世の中のために一緒に普及させていきましょう、という考え方をしている」とのことです。一貫して「世の中のために」というビジョンを貫き続けていたからこそ、今回の東松島市スマート防災エコタウンプロジェクトに迫りくる困難をクリアし、実現させることができたのだと思います。

<参照>